概要

プロジェクトの目標

日和見感染菌による院内感染(日和見感染)は,現在医療現場で最も重要視しなければならない感染症であり、大腸菌等のヒト常在菌が重度の基礎疾患を持つ易感染者に感染することによって引き起こされることが知られています。日和見感染菌は常在菌であるが故に長い期間にわたって薬剤の投与を受けている入院患者さんの体内において、長い間薬剤に曝される事により選択され、薬剤耐性菌として増殖します。この繰り返しにより複数の薬剤に耐性になることもありますが、別の細菌から一度に複数の薬剤耐性遺伝子を獲得することもあります。薬剤が常に存在する病院環境では薬剤耐性菌は特異的に選択されることになり、細菌の多剤耐性化は日々進んでいます。このように薬剤耐性日和見感染菌は進化し続ける一方、医療経済の困窮から世界の製薬企業における新規抗菌薬研究開発は停滞しており、治療不可能な各種新型の多剤薬剤耐性菌の出現と拡散が世界的な問題となり、医療の安全が脅かされている危機的な状況にあります。

治療不可能な各種新型の多剤薬剤耐性菌の分離と拡散は世界的な問題となっており、WHOが多剤耐性菌による欧米の死者を年間8万8千人と推計し各国へ対策を呼びかける事態になっています。日本においても多剤耐性菌の分離は各種マスコミ等において大きなニュースとなっていまする。我が国の医学教育において細菌、抗菌薬(抗生物質)、薬剤耐性菌の問題は微生物学関連講座で教育が行われていますが、我が国の医学領域において細菌学研究者の減少に加え、日和見感染菌、薬剤耐性菌に関する専門研究者が希少となっているため薬剤耐性菌に関する十分な知識を持つ臨床医が不足している状況になっています。そのため、薬剤耐性菌制御(耐性菌を増やさない)のための薬剤耐性菌研究やその専門家の育成及び抗菌薬適正使用等の専門教育が緊急に必要であると考えます。

このような医療の安全の危機的状況を克服するために本事業では,①薬剤耐性菌の疫学調査,研究に基づく薬剤耐性菌の専門家育成,抗菌薬の特性と薬剤耐性菌の専門教育による抗菌薬適正使用の啓蒙②薬剤耐性菌に関する情報提供等の新型薬剤耐性菌出現と拡散防止のための院内感染対策と病院内感染症早期発見システムの普及③抗菌薬適正使用のための国内医系教育機関との連携④新規抗菌薬研究開発支援等の総合的薬剤耐性菌制御対策を行います。これらの事業を通し,細菌学及び抗菌薬の特性に基づく抗菌薬使用のための指針を提供し,新型多剤薬剤耐性菌の拡散防止を行う事を目標とします。

プロジェクトの概要

1.臨床分離株の収集と系統保存、および抗菌薬開発の支援

臨床分離株を細菌検査会社および医療施設から分与を受け系統的に保存する。
収集した臨床株を解析し耐性機構の研究や耐性遺伝子の検出方法の開発を行う。また疫学データを整理し公表する。
耐性菌のリファレンス株を整備し、製薬会社や研究機関からの菌株分譲の要請に応える。

2.群馬県医療施設間の細菌情報ネットワークの構築

大学を中心とした地域の基幹病院との間の細菌ネットワークを構築することによって地域における感染症や薬剤耐性菌の情報を共有することができ、耐性菌の出現やアウトブレイクに対して適切にかつ迅速に対応できる。また、日頃から情報を交換することにより薬剤耐性菌に関する知見を互いにアップデートすることが期待される。

3.耐性菌情報の発信

収集した臨床分離株から得た疫学情報や問題となっている薬剤耐性菌の情報をホームページやリーフレットをとおして発信する。

4.薬剤耐性菌制御のためのセミナーや研究会の開催

薬剤耐性菌制御のためのICD協議会推薦教育セミナーを国立感染症研究所、名古屋大学医学部、東海大学医学部などの関連施設との協力で行う。また、薬剤耐性菌研究会の事務局として研究会の企画運営を行う。

5.抗菌薬適正使用ガイドライン作成支援

抗菌薬適正使用のガイドライン作成のための指針となるような情報を得るための細菌学的な調査・研究を行ったり、国内外の耐性菌と抗菌薬に関する文献的エビデンスの収集とそれらの解析と検証を行う。

6.感染症関連基礎講座との教育連携の強化による感染症学の高度専門教育

群馬大学大学院医学研究科の分子予防医学(ウイルス学)講座と国際寄生虫講座と連携して相互教育プログラムを作り、感染症全般について高度な専門知識を持った細菌学研究者の育成を行うためのシステムの構築を行う。

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