研究
腸球菌を中心として、様々な薬剤耐性菌について基礎生物学的な研究を展開しています。
実験技術としては、臨床分離細菌の培養や薬剤感受性試験などの医科細菌学的手法のほか、基礎的な分子生物学・生化学、NGSを含む先端的遺伝学、イメージング、各種レポーターによるアッセイ系などを用います。得られたデータは統計的な定量解析により精査しています。
接合伝達性プラスミドを介した遺伝子水平伝播
遺伝子水平伝播(Horizontal gene trasnfer, HGT)は外来遺伝子の獲得により複数かつ高度な薬剤耐性を引き起こす可能性のある生命現象であり、その分子機構の理解は薬剤耐性菌の制御のために極めて重要です。 菌体同士の物理的接触に依存する接合伝達により伝播する接合伝達性プラスミドについて、大規模な菌株バンクを活用したゲノム系統解析から細胞内でのDNA/特にタンパク質分子の挙動の分析などのアプローチにより基礎生物的な知見を得るための研究を行っています。 特に、グラム陽性菌(腸球菌)の高頻度伝達pMG1-typeプラスミドやpELF-type直鎖状プラスミド、またグラム陰性菌のIncF型やIncP型のプラスミドを対象としています。
バクテリオシン
臨床細菌株から分離されるプラスミドには、抗菌薬耐性遺伝子に加えて様々なアクセサリー遺伝子がコードされています。本施設では、このうちバクテリオシンに着目して研究を行ない、数多くの新たなバクテリオシンを発見し、その分子機構を明らかにしています。また、腸球菌プラスミドにコードされるバクテリオシンと遺伝子水平伝播との関連についても検討を行っています。
ヒト腸内組織と腸球菌プラスミドの相互作用
腸球菌を含む腸内細菌叢が及ぼす宿主であるヒトへの影響は、近年研究が最も進展している分野ですが、プラスミドの働きについては十分に理解が進んでいません。ヒト腸組織およびその代謝産物がプラスミドを介した遺伝子水平伝播を制御する仕組みを検討しています。一方、腸球菌プラスミド由来の細菌生体分子が腸管組織の免疫系に与える影響についても調べています。
薬剤感受性とゲノム解析に基づく疫学調査
全国の医療機関より分離された菌株について薬剤感受性試験を行っています。また、国内産あるいは輸入された食肉からバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)やESBL産生菌などの分離と薬剤感受性およびゲノム解析を行っています。薬剤感受性等(表現型)とゲノム情報(遺伝型)の両面から解析することにより、抗菌薬耐性化への細菌進化の動向を研究しています。このプロジェクト収集した多くの菌株の一部は、耐性菌バンクプロジェクトの一環として営利・非営利研究機関に分譲を行っています。詳しくは、耐性菌バンクのページへ。
院内アウトブレークの分子遺伝学解析
院内アウトブレークの際に収集された菌株に対してNGSを用いた、遺伝的系統解析を行うことにより、発生・拡散のメカニズムを検討します。