耐性菌 Q & A

Q1:第三世代セフェムと第三世代セファロスポリンはどうちがうのですか?

A1:セフェム系薬には、セファロスポリン系とセファマイシン系などが含まれます(参考資料)。 その中で第二世代、第三世代、第四世代などと世代を付けて分類されているのは、セファロスポリン系薬についてです。したがって、第三世代セフェムではなく、第三世代セファロスポリンというのが、学術的に正確です。 第三世代セファロスポリンは1980年代に数多く開発されましたが、当時、オキサセフェムであるラタモキセフ(シオマリン)もグラム陰性菌に対し第三世代セファロスポリンと同様の抗菌スペクトルを有していたためか、7S位にメトキシ基を有し、セファロスポリンとは異なり、セファマイシンに類似した骨格を有するにもかかわらず、1990年頃には「第三世代セファロスポリン」に含めて分類されていた時期もありました。その矛盾を解決するため「第三世代セフェム」という用語が、我が国で「発明」されたのかもしれません。 しかし、「第三世代セフェム」という用語は海外では耳にしたり目にしたりする事が少なく、現時点では日本固有の用語であるため、欧文論文を書く時には「the third-generation cephems」という単語は使わないように注意しましょう。

ちなみに、CLSIの文書等にも、以下のように記載されています。
3.2.1.3 Cephems (including Cephalosporins) The different cephem antimicrobial agents can have a somewhat different spectrum of activity against gram-positive and gram-negative bacteria. The antimicrobial class, cephems, includes the classical cephalosporins, as well as the agents in subclasses cephamycin, oxacephem, and carbacephems (see Glossary I). The various cephalosporins are often referred to as “first-”, “second-”, “third-” or“fourth generation” cephalosporins, based on the extent of their activity against the more antibiotic- resistant,gram-negative bacteria. Not all representatives of a specific group or generation necessarily have the same spectrum of activity. Because of these differences in activities, representatives of each group may be selected for routine testing.
(Performance Standards for Antimicrobial Disk Susceptibility Tests; Approved Standard)

Q2:アウトブレイク時に分離株のPFGEのパターンが異なった場合、「関連性が無い」とか「別株」と判定しても良いですか?

A2:MRSAやリファンピシン耐性結核菌の場合、耐性遺伝子が、染色体上にありますので、PFGEのパターンが異なれば、「別株」とほぼ確実に判定できます。しかし、ESBL産生大腸菌やVanA型VRE、MBL産生緑膿菌のように、耐性遺伝子が伝達性プラスミドにより媒介されている耐性菌の場合は、PFGEのパターンが異なっても「関連性が無い」と判定できない場合があります。それは、耐性遺伝子が、腸内等に存在する別の株に伝達した結果、同じ患者の腸内などに異なるPFGEパターンを示す遺伝的に別系統のESBL産生株が出現しそれらが複数共存している場合があるからです。
検査の場合、全てのコロニーを調べているわけではないので、代表的な数コロニーを選択して調べることがおおく、たまたま調べた株が、新たにプラスミドを獲得した「別系統」の株であった可能性もあります。したがって、ESBL産生株等、薬剤耐性遺伝子が伝達性プラスミドにより媒介されている耐性菌の場合は、PFGEのパターンが異なっても、必ずしも、「関連性が無い」とは断定できません。その場合、日常検査の範囲では難しいでしょうが、研究として、多数のコロニーを選択し薬剤感受性試験を行い、薬剤耐性パターンが類似する株を選んでPFGE解析を実施するとか、プラスミドの解析をしてみると、より詳しい情報が得られるでしょう。

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Q3:腸内細菌と腸内細菌科とはどう違うのですか?

A3:「腸内細菌」は、テレビのコマーシャル等でも「善玉の腸内細菌」などとして使われることもあり、その場合、乳酸菌などを意味している場合が多いです。したがって、「腸内細菌」とは、一般的にヒトの腸内(糞便)から分離される細菌を漠然と指していることが多く、大腸菌や肺炎桿菌等に加えて、グラム陽性菌である、腸球菌や乳酸菌、あるいはクロストリジウム属菌なども「腸内細菌」に含められているようです。 一方「腸内細菌科」というのは、グラム陰性桿菌の中で、「family Enterobacteriaceae」に相当し、Escherichia属、Klebsiella属、Serratia属、Enterobacter属、Citrobacter属などとともに、病原菌である、Shigella属、Salmonella属、Yersinia属などに属する菌種を指します。 したがって、腸内細菌と腸内細菌科で意味される菌種は違います。

Q4:ESBLにはCMY型やMBLも入るのですか?

A4:ESBL(Extended-Spectrum beta-Lactamase)は、「基質拡張型β-ラクタマーゼ」とか「基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ」と記述される事が多いです。名称からのみ考えると、セファロスポリン系のみならず、セファマイシン系を分解するCMY-型β-ラクタマーゼやカルバペネム系を分解するMBL(メタロ-β-ラクタマーゼ)も「基質特異性が広い」ので、ESBLに加えると誤解して記載している総説等も一部にあります。  しかし、ペニシリナーゼ(TEM-型ペニシリナーゼやSHV-型ペニシリナーゼ)のアミノ酸配列が一部変化し、これらのペニシリナーゼに安定な、いわゆる「第三世代セファロスポリン」を分解できる能力を獲得した変異型酵素がESBLであり、当初は、TEM-由来ESBLとかSHV-由来ESBLと呼ばれていました。さらに、その後、CTX-M-型β-ラクタマーゼやOXA-型β-ラクタマーゼの一部にも「第三世代セファロスポリン≒オキシイミノセファロスポリン」を分解できる酵素が出現し、それらは、ESBLに加えて考えられるようになりました。 ESBLは、セリン型β-ラクタマーゼに属し、阻害剤であるクラブランにより酵素活性が低下するという特徴を示します。 したがって、クラブランにより阻害され難い、クラスC型のCMY-型などのAmpC型β-ラクタマーゼや、クラスB型に属するMBLは、分解できるβ-ラクタム薬の範囲が広いですが、ESBLには加えません。

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Q5:「尿から分離された大腸菌のIPMに対するMICは16 μg/mlであり、IPM耐性株と判定された。」と原稿に書いたら、先生から、「文章が間違っている」と指摘されましたが、どうしてですか?

A5:MICは、最小発育阻止濃度の略で、細菌の発育を阻止する抗菌薬の最小値のことです。つまり、MICは抗菌薬(この場合はIPM)の濃度のことです。
したがって、「尿から分離された大腸菌に対するIPMのMICは16 μg/mlであり、IPM耐性株と判定された。」が正しい記載です。 質問者の方の文章は、「大腸菌の(IPMに対する)MIC」ですので、大腸菌にMICがあることになり正しい記載といえません。この点は、初心者の方は良く間違えるので注意しましょう。

Q6:CTX-M-型ESBL産生菌で、セフォタキシム耐性とともにCAZ(モダシン)耐性を示す株が最近増えているように思いますが、どうしてですか?

A6:CTX-M-型ESBL産生株は、文字通り、セフォタキシム(CTX)に耐性を示します。その他、CTXと構造が類似している、セフトリアキソン(CTRX)や家畜用のセファロスポリンであるセフチオフルやセフキノムにも耐性を示します。たしかに、以前は、多くのCTX-M-型ESBL産生株に対するセフタジジム(CAZ)のMICは低く、「感性」の範囲に入る株が一般的でした。しかし、2000年代の中頃から、CTXとCAZの双方に「耐性」と判定される株が目立つようになってきました。その背景には、CTX-M-1のグループの中でCTX-M-15と型別されるCAZを分解可能な新型の酵素を産生する株の増加があります。また、最近では、CTX-M-15と類似したCTX-M-55と型別される酵素を産生する株が出現し増加しつつあります。一方、CTX-M-9のグループではCTX-M-27、CTX-M-2のクループではCTX-M-31と型別されるCAZを分解可能な酵素が出現しており、それらの影響で、CTX-M-型ESBL産生菌であってもCAZに耐性を示す株が増える傾向にあります。 なお、CTX-M-型ESBL産生株でCAZ耐性を示す株が臨床分離された場合は、以上のメカニズム以外に、CAZを効率よく分解できないCTX-M-2やCTX-M-3などのCTX-M-型ESBLとともにCAZを分解可能なSHV-12など別のESBLの同時産生株である可能性もあります。

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Q7:「アシネトバクターは環境常在菌であり、しかも病原性も弱いので、それほど大騒ぎする必要は無い」という意見もありますが、どうなんでしょうか。

A7:確かに、アシネトバクター属菌は、有機物を多く含む湿った土壌などから分離される環境菌の一種です。しかも、これまでに国内の医療環境では、患者さんよりアシネトバクター属菌が分離されることは時々ありましたが、病院内で広がって問題となるようなことは稀でした。 しかし、現在、感染制御上で重要視されている菌種は、これらの一般的なアシネトバクター属菌ではなく、特に、アシネトバクター・バウマニと同定される菌種で、しかもその中で、染色体上の複数の遺伝子の解析による型別 [MLST(multilocus sequence typing)] で、sequence type 2(ST2)(パスツール研の方法)やclonal complex 92(CC92)(Bartualらの方法)と判定される株です。この種の株は、環境中に一般的に見られるアシネトバクター属菌と全く異なり、医療環境で伝播拡散しやすい特性を有し、さらに多剤耐性を獲得しているため、難治性の感染症の原因となります。 たしかに、現時点では、日常的な細菌検査の中で、多様なアシネトバクター属菌の中からアシネトバクター・バウマニを正確に同定したり、さらに、種々のアシネトバクター・バウマニの臨床分離株の中からST2やCC92を簡便に識別することは困難です。 しかし、もし、自施設で、カルバペネム耐性や多剤耐性傾向を示すアシネトバクター属菌が複数の患者さんから分離された場合は、詳しい解析ができなくても、アシネトバクター・バウマニのST2やCC92である可能性を想定し、遅滞なく、標準予防策、接触感染予防策の強化をするとともに、菌株の詳しい解析を、近隣の大学附属病院などの検査部や細菌学教室、あるいは、地方衛生研究所を通じて国立感染症研究所などに依頼する必要があります。

Q8:SMA disk法で「メタロ-β-ラクタマーゼ陽性」と判定されてもイミペネムのMIC値が1 μg /mlで「感性」と判定される株がありますが、どう考えたらよいのでしょうか?

A8:一般的にメタロ-β-ラクタマーゼを産生する株に対しては、イミペネムのMIC値が、4μg/ml以上となり、128μg/ml程度に達する場合もあります。しかし、最近、SMA陽性でもIPMに「感性」と判定される株が散見され注目されています。これらの株は、IMP-1の変種であるIMP-6などを産生する株である可能性があります。IMP-6はIMP-1と遺伝子の塩基配列が類似しているため、PCRでは「IMP-1陽性」と判定される点が特徴の一つです。お隣の韓国では、IMP-6を産生する「IPM感性」で、「MEPM耐性」と判定される緑膿菌(STは235など)が全国の医療機関で広がり、警戒されています。国内でも今後広がる可能性があり、「IPM感性」と判定されても、CAZやMEPMに対し「耐性」と判定される株が分離された場合には、IMP-6などの産生株である可能性を考慮して対応をする必要があるでしょう。

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Q9:EDTAは、メタロ-β-ラクタマーゼの阻害剤と言われていますが、SMAによる阻害作用とはどうちがうのですか?

A9:阻害剤というのは、一般的に、特定の分子や酵素に直接結合したり作用してその機能を阻害する物質のことです。 EDTA(エチレンジアミン4酢酸)は、たしかにメタロ-β-ラクタマーゼの活性を減弱させます。しかし、これは、EDTAがメタロ-β-ラクタマーゼに直接作用するのではなく、培地の中から、亜鉛をキレートして除去することで、酵素反応に亜鉛を必要とするメタロ-β-ラクタマーゼの活性を間接的に低下させているだけで、厳密な意味では、阻害剤ではありません。 一方、SMA(メルカプト酢酸ナトリウム)などのメルカプト化合物は、金属に結合しやすい(-SH)基を持ち、多くのメタロ-β-ラクタマーゼの活性中心に存在する亜鉛に結合して、酵素活性を減弱させるので、阻害剤と言えます。ただし、他のメタロ酵素も阻害する可能性があり、メタロ-β-ラクタマーゼの特異的阻害剤とは、断定できません。 なお、EDTAは、亜鉛のみならず、細菌の生育に不可欠な、他の二価の金属イオンも同様に吸着除去する能力を持つため、EDTAの存在下では、細菌の生育に不可欠な各種の金属が培地中で欠乏して菌の生育が非特異的に阻害される現象が見られます。 たとえば、アシネトバクターや大腸菌などでは、500mMのEDTA-2Naを20μl添加したdiskの周囲に、判定の邪魔になる程度の発育阻止帯が出現する株もあり、「メタロ-β-ラクタマーゼ陽性」と偽陽性判定の原因となったり、判定不能となったりすることがあるので、注意が必要です。

Q10:セフポドキシムやセフォペラゾンに耐性を示し、クラブラン酸の存在下でセフポドキシムのMICが低下するKlebsiella oxytoca が分離されましたが、これはESBL産生株でしょうか?

A10:Klebsiella oxytocaは全ての株が染色体上にK1型(KOXY型、RbiAなどとも呼ばれている)のβ-ラクタマーゼの遺伝子を持つため、多くの株はセフポドキシムやセフォペラゾンなどに生来耐性を示します。また、K1型β-ラクタマーゼは、ESBLと同じクラスA型のβ-ラクタマーゼに属し、クラブラン酸によって阻害されます。したがって、ESBLのスクリーニング試験では、K. oxytocaはしばしば「ESBL産生株疑い」と判定されますが、その多くはK1型β-ラクタマーゼ過剰産生株であり、ESBL産生株ではありません。しかし、一部には、プラスミド媒介性のSHV-由来ESBLやCTX-M型ESBLを産生する株があるので、接合伝達実験を行い、セフポドキシム耐性が伝達するか否かを調べることが鑑別に役立ちます。

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Q11:2013年3月にCDCが「CRE」に対し警告を発しましたが、どうしてですか?

A11:「CRE」は、切り札的な抗菌薬とされているカルバペネム系薬に耐性を獲得した腸内細菌科の菌種(Carbapenem Resistant Enterobacteriaceae)の総称の略名で、菌種の多くは肺炎桿菌です。米国では2000年以降KPC型のカルバペネマーゼを産生するCREが全国的に広がり、ニューヨークやその近傍など特定の地域では、分離率が特に高くなっています。CREはカルバペネム耐性に加え、フルオロキノロン系やアミノ配糖体系にも多剤耐性を示すことが多く、感染症を引き起すと治療が困難になり、血流感染症では5割程度が死亡するため、CDCは、CREをこれ以上医療現場で蔓延させないために警告を発しました。 なお、欧州ではKPC型に加え、NDM型やVIM型、OXA-48と呼ばれるカルバペネマーゼを産生する多様なCREが急速に拡散しつつあります。

Q12:最近、OXA-48という新しいカルバペネマーゼが国内で話題になっていますが、これまでに知られていたOXA-51-likeやOXA-23-like等とは、どう違うのですか?

A12:OXA-48は、OXA-51-likeやOXA-23-like等と同じ仲間の新型カルバペネマーゼです。しかし、アミノ酸配列を比較するとOXA-51-likeやOXA-23-likeなどとはかなり違いが見られ、遺伝的にもかなり離れており、OXA-51-likeやOXA-23-likeの遺伝子を検出するためのPCRでは検出できません。また、OXA-51-likeやOXA-23-like等が、これまで、Acinetobacter baumanniiという菌種で問題となってきたのに対し、OXA-48を産生する菌種としては、肺炎桿菌や大腸菌などのヒトの腸内に定着しやすい腸内細菌科の菌種が多いという違いがあります。また、OXA-48産生肺炎桿菌は、欧州特にベルギーなどで急速に広がっており、フランスやスペイン等で、しばしば院内感染の原因となり、血流感染症を引き起すと死亡率が高くなるため、その広がりが強く警戒されています。

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Q13:肺炎桿菌や大腸菌、エンテロバクター属菌などの菌種で、イミペネムなどのMICが4-16μg/mlと判定される株がありますが、SMA法は陰性で、modifiedホッジテスト(MHT)でも、カルバペネマーゼの産生も陰性という結果が得られました。どう考えたら良いでしょうか?

A13:たしかに、最近、NDM-1やIMP-1などのメタロ-β-ラクタマーゼやKPC型、OXA-48などのカルバペネマーゼを産生しないにもかかわらず、「カルバペネム耐性」と判定される菌株が散見されます。これらの多くは、染色体性のAmpCやプラスミド媒介性のクラスC型のβ-ラクタマーゼ(セファロスポリナーゼ)を過剰産生し、さらに、特定の外膜タンパクが欠失した株であることが報告されています。特に、CMY-2やACT型、DHA型などのクラスC型β-ラクタマーゼの一部には、ごく弱くですがカルバペネムを分解する活性を持っているものがあり、それらの過剰産生と外膜の変化とが重なることでカルバペネムに対する耐性度が上昇すると報告されています。一方、南アフリカなどでは、GES型のβ-ラクタマーゼを産生するカルバペネム耐性株も報告されています。

Q14:最近、ペニシリンに低感受性を示すB群連鎖球菌(PRGBS)が話題になっていますが、臨床的な危険度についてはどのように考えたら良いでしょうか?

A14:たしかに、最近、PRGBSがヒト由来の臨床検体よりしばしば分離され、一部では、院内で広がったことを示唆する研究報告も出ています。しかし、PRGBSの多くは、現時点では喀痰や褥瘡の膿などの体表面由来検体からの分離株であり、血液から分離された株は極めて稀です。さらに、これまでに妊婦さんの検査や新生児の髄膜炎から分離されたGBSの中からはPRGBSは検出されていません。したがって、PRGBSは、現時点では、新生児の敗血症や髄膜炎などの侵襲性の感染症の起因菌となる危険性は低いと考えられています。しかし、一般的なGBSであっても高齢者の肺炎の原因になったり小児の血液や髄液から分離されることはあり、将来的に病原性がより強くなったPRGBSが出現する可能性は残るので、その動向を注意深く監視して行く必要があると思われます。

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Q15:2週間以内に5名の患者の血液培養でカルバペネム耐性セラチアが分離されました。同じ時期に実施したネブライザーの培養検査でもカルバペネム耐性セラチアが分離され、血液由来の株とPFGEのパターンが一致しました。そこで、ネブライザーから飛沫となって飛散したセラチアを吸い込むことで、気道や肺から血液中に菌が侵入したと考えて良いでしょうか?

A15:細菌に対しほぼ正常な感染防御能力を有している患者さんでは、仮に少量のセラチアを口や鼻から吸い込んでも、それが原因で肺炎になったり血液培養が陽性になることはまずありません。セラチアや肺炎桿菌、緑膿菌、アシネトバクターなどの菌種は、皮膚や呼吸器粘膜などの上皮細胞に侵入する能力は殆ど無いからです。また、仮に少量、組織や血流中に侵入しても、殺菌作用を有する好中球等に貪食されて処理されます。したがって、セラチアなどの菌種が複数の患者さんの血液培養で同時期に分離されたような場合には、まず、点滴や輸液路などを通じて菌が血流中に侵入した可能性を疑って、調査や対策を講じる必要があります。なお、ネブライザーからセラチアなどの細菌が分離される場合は、医療器具の衛生管理に問題があったり、それらの菌によって、病室や病棟がかなり高度に汚染されていることを示唆しますので、汚物処理室や水回りなどのどこかに、セラチアなどが住みついていないかなどを調べ、必要な衛生管理を徹底していただく必要があります。

Q16:最近、外来患者からもESBL産生菌がしばしば分離されるようになりました。そこで、「ESBL産生菌については、院内で感染制御の対象としても意味が無い」などという意見もありますが、どう考えたら良いのでしょうか?

A16:たしかに最近、市中で健康な生活を送っている人からも数%の割合でESBL産生菌が分離される事態になっています。したがって、医療環境でESBL産生菌が広がるリスクは以前より高まったことは事実です。重要なことは、「一般市民も一定の頻度でESBL産生菌を保菌しているので、病院内で対策を立てても無意味だ。」というふうに短絡的に考えるのではなく、ESBL産生菌の保菌者が入院して来た時には、これまでと同様にESBL産生菌を保菌していない他の入院患者にESBL産生菌が伝播しないように、必要な伝播防止策を実施することです。  なお、ESBL産生菌は、ESBLの遺伝子以外にも、各種の薬剤耐性遺伝子を同時に持っている多剤耐性株であることも多く、そのような菌を病院環境で対策も講じずに増やすようなことは現状では避けるべきであると考えられます。そのためにも、新規入院患者や他院からの転院患者については、入院時点でESBL産生菌等の特定の耐性菌を保菌の有無について検査し、陽性者に対しては、伝播防止のための適切な予防策を講じる必要があると思われます。

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Q17:CAZのMICが32μg/mlと判定されるKlebsiella pneumoniaeが分離されました。クラブラン酸が存在すると、CAZのMICが1μg/mlに低下したので、PCRを実施したところ、SHV型「陽性」と判定されました。そこで、この株はSHV-12などのESBLを産生していると判定して良いでしょうか?

A17:SHV-12などの産生株である可能性はあります。しかし、K. pneumoniaeの場合、ESBLを産生していなくても、染色体性のペニシリナーゼの過剰産生と膜の変化とによりCAZのMICが32μg/ml程度となる株があることは、以前から知られています(Rice LB, et al., 2000, Antimicrob Agents Chemother 44:362-7.)。また、K. pneumoniaeの染色体性のペニシリナーゼ(LEN-1)の遺伝子はSHV-derived ESBLの遺伝子と極めて類似しているので、PCRに用いたプライマーのシークエンスによっては、「陽性」と誤判定される場合があり、注意が必要です。

Q18:メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生株に対してはアズトレオナム(AZT)のMIC値が低く、「S」と判定されることが多いですが、AZTはメタロ-β-ラクタマーゼ産生株による感染症に有効性が期待できると考えて良いでしょうか?

A18:たしかに、IMP型であれVIM型であれMBLを単独で産生する株に対するAZTのMICは、「S」の領域となる場合が多いです。PIPCのMICも低い傾向がみられます。また、MBL産生菌による感染症に対しAZTが有効であったという1例報告は幾つかあります。しかし、症例対照研究等でAZTの有効性が検証された文献はいまのところありません。また、MBL産生菌は、染色体性のAmpC型セファロスポリナーゼやプラスミド媒介性の各種のβ-ラクタマーゼの遺伝子を保有している場合が多く、臨床分離された当初はそれらの遺伝子が十分に発現していない場合もあり、MBLの影響が前面に出た感受性プロファイルを示しますが、β-ラクタム薬に一定期間さらされることで、それらの遺伝子が高発現するようになりAZTに対する耐性度が上昇した株がやがて出現してくる可能性も念頭に置く必要があるでしょう。

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Q19:多剤耐性緑膿菌や多剤耐性アシネトバクターでは、汚物室や尿量測定装置、水回りなどの湿潤環境の衛生管理が重要視されています。しかし、MRSAでは、その点はあまり強調されていませんがどうしてでしょうか?

A19:緑膿菌やアシネトバクター属菌は、元来は「環境菌」であり、植物や土壌などからも検出される菌種です。また、水分と若干の有機物があれば、室温程度でも持続的に増殖が可能な菌種です。したがって、有機物で汚染されやすい水回りなどの環境に定着しやすい性質を有しています。一方、黄色ブドウ球菌は、皮脂や角化上皮の分解成分などに富む動物の皮膚等の富栄養環境を好む皮膚常在菌であり、貧栄養環境である植物の表面や土壌などから分離されることはまずありません。したがって、黄色ブドウ球菌は、汚物室等で自発的に増殖する能力は、緑膿菌やアシネトバクター属菌より劣っており、その点で汚物室や水回り等がMRSAの感染源になるリスクは緑膿菌等に比べ低いと考えられています。

Q20:我が国で1997年頃にバンコマイシンのMICが8μg/mlとなるバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌の出現やその発生母地とされるバンコマイシンへテロ耐性黄色ブドウ球菌(hVRSA)が大学病院等で9%程度存在すると報告され、海外も含め大きな関心事となりましたが、それらのその後の状況はどのようになっているのでしょうか?

A20:客観的事実として、バンコマイシンのMICが8μg/mlと判定されるようなバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌は、国内ではこれまでのところ臨床分離株では確認されていません。つまり、国内で臨床分離される黄色ブドウ球菌に対するバンコマイシンのMIC値は2μg/ml以下が大半で、2〜4μg/mlとなる株はあっても極めて稀です。微量液体希釈法でバンコマイシンのMIC値が2μg/mlと判定された株では、Etestでは、MICが1.5μg/mlやそれ以下と判定されることが多いようです。しかし、検査装置によっては、MIC値が高目に出る機種があることは事実で、検査装置の精度管理の向上が重要です。繰り返しになりますが、hVRSAの報告後10数年が経過しますが、国内では、未だにバンコマイシンのMICが8μg/mlというような黄色ブドウ球菌は確認されていません。ただし、黄色ブドウ球菌やMRSAをMICよりやや低い濃度のバンコマイシンを含む培地で繰り返し継代培養することで、バンコマイシンのMICが100μg/ml程度となる「耐性株」を人為的に作出することは可能です(Sieradzki K, Tomasz A. 1996, FEMS Microbiol Lett. 142:161-6.)。 一方、海外ではvanA遺伝子を獲得したMRSAが何例か報告されていますが、そのような株の院内伝播やアウトブレイクの発生は、幸いなことに、これまでのところ海外でも報告されていません。

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Q21:イミペネムに「I」と判定された肺炎桿菌について、SMAテストを実施したところ「陰性」でしたが、modified Hodge test(MHT)では、「陽性」となりました。MBL以外のカルバペネマーゼを産生する株と判定して良いでしょうか?

A21:MHTは、カルバペネムを分解するMBLsやKPC、OXA-48などの酵素を産生する株のスクリーニング法としては簡便な方法で、CDCも推奨しています。しかし、特異度や感度に問題があり、CTX-M型ESBL産生株でも「陽性」と誤判定される場合も指摘されている(Carvalhaes CG, et al., J Antimicrob Chemother. 2010, 65:249-51., Wang P, et al., PLoS One. 2011, 6:e26356.)ので、MHTの結果のみでカルバペネマーゼ産生株と判定するのは危険です。

Q22:Acinetobacter baumanniiのMLST解析で、国際的に広がっている流行株(International clone II)をST92やCC92と記載する一方で、ST2と記載している文献がありますがどういうことでしょうか?

A22:A. baumanniiのMLST解析の方法については、現在、Bartualの方法(Bartual SG, et al., J Clin Microbiol. 2005, 43:4382-90.)と、Pasteur研究所のグループが推奨する方法の二つが主に用いられています。前者の方法では、International clone IIはST92やCC92と分類され、後者の方法では、ST2と分類されるということです。両者は、解析の対象としている遺伝子が若干異なり、Bartualの方法でCC92と判定される株はPasteurの方法ではST2に含まれることが多いです。

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Q23:メロペネムとアミカシンに耐性を獲得し、シプロフロキサシンのMICは「I」の範囲と判定された二系統耐性のアシネトバクター属菌が、14日間に8名の患者より分離されました。また保菌と判断されたので、感染症法の届け出基準には合致せず、保健所には報告しなくても良いと考えますが、それでかまいませんか?

A23:感染症法では、カルバペネム系、フルオロキノロン系、およびアミカシンに対し一定レベル以上の耐性度を示す株による感染症を発症した患者さんについて、届け出が求められています。複数の症例から、届け出の基準を満たした耐性度を獲得したアシネトバクター属菌が分離されても、保菌者については報告義務が無いとされています。また、二系統耐性のアシネトバクター属菌による感染症患者についても、感染症法では、届け出は求められていません。しかし、一定期間内に複数の患者さんから二系統耐性のアシネトバクター属菌が検出され、この耐性菌による院内感染の発生が疑われるものの、対策の効果が見られないなどの場合には、感染症法ではなく、医政局指導課の課長通知(平成23年6月17日:医政指発0617第1号)に従い、保健所に届け出て頂いたほうが良いでしょう。(参考資料 (医政指発0617第1号)、139頁の黄色でハイライトした部分などがその根拠)

Q24:入院後、48時間以内の検査で、VREが検出されました。そこで、「持ち込み」と判断して対応していますが、それでよろしいですか?

A24:医療関連感染の疫学調査や疫学研究では、「入院48時間以降に検出されたVREは院内獲得とする」などと定義して調査や解析が行われることが多いです。その逆に、入院後、一定時間内に特定の耐性菌が分離された場合は、「持ち込み」と見なして、対応が行われる場合もあります。しかし、48時間以内であっても、入院後に病院内で獲得した耐性菌である可能性が否定できない場合もあり、細菌学的な視点から分離菌株の生物学的、遺伝学的特徴を詳しく解析し、48時間以内の分離株が病院内で既に分離されている菌株と、細菌学的、遺伝学的に同等であれば、「院内で獲得」と判定し、感染源や感染ルートの調査などを含め、感染制御の対象として頂く必要があるでしょう。

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Q25:最近、海外でCRE(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae) が警戒されています。私の病院でもIPMのMICが2〜16μg程度となる肺炎桿菌やEnterobacter属菌が分離されましたが、既知のMBLやKPC、OXA-48などのカルバペネマーゼの遺伝子を検出するPCRでは「陰性」、modified Hodge testでも「陰性」となってしまいます。これらの株はどのように考えたら良いでしょうか?

A25:腸内細菌科の菌種で、IMPやVIM, NDMなどのMBL、KPC、OXA-48などのカルバペネマーゼを産生しないにもかかわらず、カルバペネムに低感受性や耐性を示す株が散見されるのは事実です。SMB-1やTMB-2などの新規のカルバペネマーゼを産生する株の可能性もありますが、多くは以下のような株と考えられます。
1. Enterobacter属やCitrobacter属など染色体性の誘導型AmpCを産生する菌種では、AmpCの過剰産生とともに、特定の外膜タンパクの減少や欠失により、上記の形質を示します。
2. Klebsiella属や大腸菌など、染色体性のAmpCを産生しない菌種では、plasmid媒介性のDHA型やCMY型のセファロスポリナーゼ(セファマイシン系も分解可能)の過剰産生とともに特定の外膜タンパクの減少や欠失により、上記の形質を示します。  
なお、大腸菌の場合、通常では発現しない染色体性のAmpCが、プロモーター領域の変異やISなどの挿入により過剰産生されるようになった株も稀に存在するようです。

Q26:MBLやKPCなどの特定のカルバペネマーゼを産生しないのですが、IPMのMICが16μg/mlと判定されるEnterobacter cloacaeが複数の患者から分離されました。CDCなどが注意を呼びかけているCREには該当しないので、対策を講じなくても良いでしょうか?

A26:カルバペネマーゼを産生しないにもかかわらずカルバペネムに耐性を示す腸内細菌科の菌株については、DHA型やCMY型などのプラスミド媒介性のセファロスポリナーゼの過剰産生株も含まれており、感染制御の観点からはそのような株が医療環境で広がるのは避ける必要があるので、ESBL産生菌などと同じように接触予防策などを実施する必要があると考えられます。

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Q27:ホスホマイシンに対する薬剤感受性を試験する場合の留意点を教えて下さい。

A27:ホスホマイシンは、糖を取り込むトランスポーター(GlpT, UhpT)により細胞内に取り込まれます。このトランスポーターの一つUhpTは、グルコース-6-リン酸(G6P)の存在下で誘導産生されます。したがって、G6Pを添加した場合としない場合ではホスホマイシンのMICが大きく異なるので、通常はG6Pを添加した環境でMICの測定を実施します。 参考文献: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20404116

Q28:最近、ArmAやRmtBなどの16S rRNAメチレースを産生する菌種や菌株の増加が警戒されています。そのような株を日常検査で識別する方法について教えて下さい。

A28:通常、アミノ配糖体への耐性はアミノ配糖体のアセチル化、リン酸化、アデニル化による不活化によるものです。それらとは異なる16S rRNAメチレースを産生する株を検出する為には、日常検査で実施しているアミノ配糖体の感受性試験で、たとえばアミカシンやゲンタマイシンなどが全て「R」と判定される株を選びます。次に、保険適応が無いので通常は薬剤感受性試験を実施しませんが、アルベカシンに対する薬剤感受性を調べます。KB diskを用いた試験で発育阻止円が全く出現しない場合には、16S rRNAメチレース産生株の可能性が高くなります。

Q29:最近、国内でOXA-48を産生する肺炎桿菌や大腸菌が分離されたということで話題になっていました。どうして、OXA-48産生株はそれほど問題なのでしょうか?

A29:OXA-48産生株は2001年にトルコで分離された株が最初で、その後急速に欧州などに広がっています。OXA-48産生株はCREの一つですが以下の点で臨床的に警戒されています。
1. OXA-48産生株による血流感染症を発症すると治療ができず、半数程度が死亡すると報告されている。  
2. OXA-48産生株はカルバペネム以外にもフルオロキノロン系やアミノ配糖体系にも広範囲に耐性を示す傾向がある。  
3. OXA-48産生株による感染症にはコリスチン(国内未承認)など限られた抗菌薬しか有効性が期待できない場合が多い。
4. OXA-48産生株は院内感染症のみならず市中感染症である尿路感染症や肺炎などの原因となりうる。
5. OXA-48産生株は日常検査ではESBL産生株などと識別が難しい場合が多く、発見が遅れる危険性がある。

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Q30:MEPM耐性(MIC, 8 μg/ml) のProteus vulgarisが分離されました。SMA試験陽性で、PCRでIMP型と判明しました。IPMのMICが1 μg/mlなので、おそらくIMP-6のようなイミペネムの分解活性が弱いMBLを産生する株と思います。これについて、ISMRKを参考にISMRPと命名することも考えていますがどうでしょうか?

A30:「ISMR」とは「imipenem-susceptible but meropenem-resistant」の略であり、そのような形質を示すKlebsiella pneumoniaeが最初に「ISMRK:imipenem-susceptible but meropenem-resistant K. pneumoniae」と命名されました。 この名称は「イミペネム感性/メロペネム耐性」という、MBL産生菌としてはパラドキシカルな形質を示すには便利なネーミングです。しかし、この形質の原因はIPMの分解活性が弱いIMP-6というIMP-1型MBLの変種(variant)を産生するためです。このIPM-6の遺伝子はプラスミド媒介性であることも多く、Klebsiella属以外にも近縁のEscherichia属やProteus属などにも伝達しつつあります。そのような株を「ISMRE」や「ISMRP」と命名した場合、「imipenem-susceptible but meropenem-resistant」のEnterobacter属やProvidencia属などとそれぞれ紛らわしくなり、混乱が予想されます。そこで、IMP-6の産生を確認した上で「IMP-6を産生するProteus vulgaris」と記載し、「ISMRP」という略名は用いない方が良いと思います。 ちなみに、韓国ではIMP-6を産生する緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が蔓延しつつあり、それらも「ISMRP」と表記されると混乱がさらに大きくなってしまう恐れがあります。

Q31:VREの届出基準が改定され、検査方法からvan遺伝子の検出が削除されました。 腸球菌が血液から分離され、PCRによりvan遺伝子が検出されたが感受性試験を実施していない場合、届出は不要ですか? また、vanB遺伝子が検出されたがバンコマイシンのMIC値が8 μg/mlの場合は届出は不要ですか? さらに、届け出が不要な場合、院内感染対策を講じる必要はないと考えてよいでしょうか?

A31:まず、PCR解析の結果でvan遺伝子を保有した腸球菌(暫定的なVRE)と判定される株による感染症と診断された場合は、VREの確認及び治療薬剤選択のため薬剤感受性試験の実施をお薦めします。その結果、感染症法の届け出基準(バンコマイシンMIC値16 μg/ml以上)に合致すれば、今回は血液培養分離株なので「VRE感染症」として感染症法に基づき届け出をして頂く必要があります。(薬剤感受性試験の実施は強制や義務ではないので、それを実施するかしないかは医療機関の判断です。しかし、仮に実施しないとなると「感性」「耐性」の判定ができず、感染症法に基づく届け出はできないことになります。届け出なくても法令違反には問われないと思いますが、回答者としては薬剤感受性試験の実施を強くお薦めします。)
薬剤感受性試験の結果、バンコマイシンのMIC値が16 μg/ml未満であれば、届け出の必要はありません。

「感染症法に基づく届け出基準に該当するかどうか」と「院内感染対策が必要かどうか」は全く別ですので、仮に届け出をしない場合であっても、「保菌」と考えられる場合も含め、過去の「厚労省通知」などを根拠に医療機関内でのVREの院内伝播を防ぐため、実効ある必要な対策を実施して頂く必要があります。 以上は回答者の私見ですので、届け出に関してご不明の点があれば、感染症法の所管課である厚生労働省結核感染症課にお尋ね下さい。 参考資料(厚労省通知:H9年 VRE通知H10年 VRE通知H11年 VRE通知

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Q32:当院は感染症法に基づいて指定された定点病院です。最近、カルバペネム耐性の緑膿菌が複数の患者さんから検出され、院内感染の発生が疑われます。分離株の中には、ニューキノロン耐性も同時に獲得した二系統耐性株も散見され、その株による肺炎患者も実際に出ています。しかし、感染症法で定められている「届け出の基準」を満たしていないので、届け出は必要ないと理解していますが、それで良いですか?しかし、「届け出が不要な耐性菌なので感染制御の対象菌種にする必要性が無い」と院内ではあまり重要視されていません。本当にそれで良いのでしょうか?

A32:感染症法は、特定の病原体(耐性菌を含む)による感染症患者の発生動向を監視する為に報告を求めていますが、院内感染対策や感染制御の向上を目指した法律ではありません。したがって、「報告基準」を満たさない病原体による感染症例については、アウトブレイクが発生した場合であっても報告は求められていません。しかし、感染制御、院内感染対策の観点からは、特殊な耐性菌による院内感染の発生が疑われた場合には、医政局の課長通知にあるように、必要な感染拡大防止策、伝播防止策を講じて頂く必要があります。その内容については、Q23と共通した部分もありますので、そちらをご参考にして下さい。

Q33:MRSAとPRSPについて教えてください。MRSAとPRSPのペニシリン耐性機構はともにPBPの変異によると理解しています。MRSAは、メチシリン以外の全てのβ-ラクタム薬も「耐性:R」に変換して報告するのに対して、PRSPの場合にはそのような変換は通常行いません。これはどのような理由によるのでしょうか。

A33:MRSAが獲得しているPBP2'は、メチシリンとの親和性が低く、阻害されないので「R」と判定されます。しかし、その他の多くのβ-ラクタム薬(セフェム系薬を含む)のMIC値が通常の薬剤感受性試験で低くても、これらの抗菌薬のPBP2'に対する親和性もやや低下しており、PBP2'を阻害し難いと考えられています。たしかに、in vitroの薬剤感受性試験の結果では、MICが「S」や「I」の範囲と判定される場合も多くみられます。しかし、そのような株による感染症例では、多くのβ-ラクタム薬で実際に有効性が有意に確認できなかったということで、「S」や「I」の場合も「R」に変換することが推奨されています。 一方、PRSPについては、獲得された変異型PBPに対しては、ペニシリンの親和性が低下し阻害活性も低下し、実際に、抗菌活性も減弱しており「R」と判定されます。しかし、多くのセフェム系薬やカルバペネム系薬については、親和性が残っており、MICが低い(「S」の範囲にある)場合などでは、実際の感染症例の治療成績からは、それらの抗菌薬による治療効果がみられたという事実から、機械的、一律的な「R」への変換は推奨されていません。

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Q34:CTXとCAZ、CFPMなどに広範な耐性を示し、クラブラン酸(CVA)を用いた試験で「陽性」と判定され、ESBL産生が疑われるE. coli株が分離されました。しかし、TEM型、SHV型、CTX-M型、GES型などの遺伝子を検出するPCRでは全て「陰性」となりました。また、アミノフェニルボロン酸を用いた試験では「陰性」との判定結果が出ています。どのように考えたら良いでしょうか。

A34:CVAを用いた試験で、「陽性」と判定されるのであれば、クラスAのESBLを産生していることが最も考えられます。最近、CTX-M型でCTX-M-1グループとCTX-M-9グループの二種類の遺伝子が融合したキメラ形の新しいCTX-M型ESBLが中国などで出現して来ていますが、それらは一般的に用いられているCTX-M型の判別のためのPCRでは検出できません。キメラ型のCTX-M型ESBLの例としては、CTX-M-64、CTX-M-123、CTX-M-132 (GenBank accession no. JX313020)、それにCTX-M-116(CTX-M-1グループに属するCTX-M-22とCTX-M-23の融合型)などが、海外から報告されていますので、それらも考慮して解析をする必要があります。

Q35:英文論文を読んでいるとカルバペネムに耐性を示す腸内細菌科細菌を、ある論文ではCREと表記し、一方別の論文ではCPEと表記したりしていますが、どのような違いがあるのですか?

A35: CREは主に米国で用いられています。その理由は米国ではKPC型カルバペネマーゼを産生する肺炎桿菌等が主流であり、それらの殆どは、通常の薬剤感受性検査で、カルバペネムに「耐性:R」と判定されるため、「carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: CRE」と表記されます。一方、CPEは主に欧州方面の論文で多く用いられています。その理由は、NDM型やVIM型のMBL産生株が多い欧州では、たとえばNDM-1産生肺炎桿菌であっても、必ずしもカルバペネムに「耐性:R」と判定されるわけではなく「中間:I」や「感性:S」と判定される場合もあるため、「carbapenemase-producing Enterobacteriaceae: CPE」と表記されることが多いということです。実質的にはCREもCPEも同じ耐性菌を意味します。

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Q36: Modified Hodge Test(MHT)ですが、なにをModifiedしたものなのか? 原法は何ですか?

A36: 米国ワシントン州にあるWalter Reed Army Medical Centerに在籍していたWavell Hodgeらは淋菌のペニシリナーゼ産生株を簡便に検出する方法を考案し、1978年にJCMに発表した。

<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/415067>

 この方法では、MH寒天培地上に、ペニシリン感性のS. aureus (ATCC 25923)を塗布し、そこにペニシリナーゼを産生する陽性株、ペニシリナーゼ非産生株(陰性株)、さらに被検株をストリークし、その中央にペニシリンを10 U含むKB diskを置いて、一夜培養すると、ペニシリナーゼを産生する菌株のストリークに沿って、発育阻止円の形が歪むことから、ペニシリナーゼ産生株を容易に検出できるというものであった。この方法は、ペニシリナーゼを産生する、Haemophilus influenzaeEscherichia coliSerratia marcescens、および S. aureusなどにも応用可能であった。  その後、韓国の延世大学医学部のKyugwon Leeらは、上記の方法をメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)を産生するAcinetobacter属菌などの検出に応用することを考え、その方法を、Modified Hodge test (MHT)と命名し2001年にClin Microbiol Infectに発表した。

<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11298149>

この方法では、MH寒天培地上にペニシリン感性のE. coli ATCC 25922を一面に塗布し、そこにMBLを産生する陽性株、MBLを産生しない陰性株、それに被検株をストリークし、中心にイミペネムのdiskを置いて一夜培養すると、MBL産生株のストリークに沿って、発育阻害帯が歪むため、MBL産生株を容易に識別できるというものであった。この方法は、最近、KPC産生肺炎桿菌 (CRE)の検出法の一つとしてCDCによっても推奨されているが、検出にはエルタペネム diskがより適しているとされている。  なお、「hodge」には、「田子作」や「田舎男」などという意味を持つため、英語圏では名前の印象があまり良くないせいか、最近では、MHTは「cloverleaf test」とか「clover-leaf test」と記述されることもある。

Q37: 和文の論文や報告書などで、「IMP-1型」と書いてある場合と、「IMP-1」と書いてある場合がありますが、どのように違うのでしょうか?

A37:「IMP-1型」という場合は、通常はIMP-1の遺伝子を検出可能なPCRで陽性になったけれども、DNAのシーケンス解析がされておらず、IMP-1と類似のIMP-6やIMP-10などの可能性も否定できない場合などに「IMP-1型」と表記される場合が多いです。一方、DNAのシーケンス解析が終わりIMP-1と特定された場合には「IMP-1」と記載されます。同様に、「CTX-M-9型」や「CTX-M-9 group」という用語は、CTX-M-9の遺伝子を検出するPCRで陽性になったけれども、CTX-M-9かCTX-M-14、あるいはCTX-M-27なのか区別ができていない場合に用いられます。

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Q38: IMP-6の遺伝子(blaIMP-6)を保有する肺炎桿菌とEnterobacter cloacaeが分離されました。二株について、blaIMP-6を担うプラスミドの接合伝達実験とPCRによるInc型の判定を行ったところ、肺炎桿菌はIncK、E. cloacaeではIncN、と異なるInc型のプラスミドによりblaIMP-6が媒介されている事が分かりました。そこで、「両者のblaIMP-6は起源が異なる」とか、「IMP-6陽性の肺炎桿菌とE. cloacaeは、分子疫学的に無関係」と断定して良いでしょうか?

A38: 結論から言いますと「断定できません」。その理由は、blaIMP-6を担うインテグロンやそれを含むトランスポゾンの構造が両者で概ね一致する可能性もあり、その場合は、blaIMP-6を担うインテグロンやそれを含むトランスポゾンが、菌の中で、IncKとIncNとのプラスミドの間で転移し、その後、何れか一方が消失、脱落した可能性も残るからです。正確に断定するには、プラスミド全体の遺伝子配列の比較解析が必要になります。

Q39: 下痢患者の便培養で、カルバペネム耐性の肺炎桿菌(CRE)が分離されました。「CREによる感染症」と判定してよいでしょうか?

A39: 肺炎桿菌は、通常では腸管毒素や下痢毒を産生せず、下痢の原因にはならず、むしろ正常な腸内細菌叢を構成する菌種の一つです。したがって、カルバペネム耐性を獲得しても肺炎桿菌が下痢の原因になることはありません。 下痢の原因は、ウイルス性や他の細菌によるものや、カルバペネム等の広域β-ラクタム薬などの抗菌薬の投与に伴う菌交替による下痢症なども想定されます。 しかし、一部の肺炎桿菌ではLTやSTなどを産生するものがごく稀にですが分離されることがあります。<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8433897>
また、大腸菌では、ETECやEPEC、EHECなど下痢を引き起こす株が存在しますので、そのような株が今後カルバペネマーゼの遺伝子を獲得しCRE化する可能性もあります。なお、Klebsiella oxytocaが抗菌薬の投与中に下痢便から分離されることがありますが、既に、K. oxytocaのカルバペネマーゼ産生株も国内外で報告されていることを念頭に置き、検査や解析、対策が必要になります。 重要なこととしては、下痢患者の便からCREが検出される場合は、患者周囲の汚染を引き起こしやすく、CREのアウトブレイクの原因となる危険性が高いので、個室管理等を含めた接触予防策の徹底が必要になります。

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Q40: CREによる感染症が5類全数報告疾患に追加されましたが、届け出には、カルバペネマーゼ遺伝子の検出や型別は必要でしょうか?

A40: 感染症法に基づく届け出は、日常的な検査業務として実施されている薬剤感受性試験の結果、厚労省が示す「届出のために必要な検査所見」に合致すれば届け出が必要ですが、カルバペネマーゼ遺伝子の検出や型別は不要です。

Q41: 血液培養で大腸菌が分離され、自動検査装置による薬剤感受性試験ではメロペネムのMIC値が1μg/mlと出て「S」と判定されましたが、念のためdisk拡散法を実施したところ、発育阻止円の直径は21 mmとなりました。どのように判断したら良いでしょうか?

A41: 厚労省が示す「届出のために必要な検査所見」では「メロペネムのMIC値が2μg/ml以上であること、又はメロペネムの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が22㎜以下であること。」となっているので、再検査をして同じ結果が出た場合は、disk拡散法による判定結果を優先し、保健所に届け出て頂く必要があります。

Q42: メロペネムのMICが4μg/mlと判定されたEnterobacter cloacaeが血液培養検査で分離されたので、PCR検査を実施したところ、IMP、VIM、NDM、KPC、OXA-48などの遺伝子は全て「陰性」でした。このような、カルバペネマーゼを産生しないと考えられるカルバペネム耐性株による感染症患者についても、感染症法に従い保健所に届け出る必要があるのでしょうか?

A42: 感染症法では、厚労省が示す「届出のために必要な検査所見」に合致すれば、特定のカルバペネマーゼ遺伝子を保有していなくても、届け出を求めています。

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Q43: 患者の血液培養検査により、イミペネムのMICが1μg/mlで「S」と判定されるものの、セフメタゾールを含む多くのセフェム系薬に対し耐性「R」と判定されるKlebsiella pneumoniaeが分離されました。当病院では、腸内細菌科の菌種に対する薬剤感受性試験ではカルバペネム系抗菌薬としてイミペネムを採用しており、メロペネムは検査していないので、厚生労働省が示すCRE感染症と診断するための「届出のために必要な検査所見」に合致するかどうか不明です。このような場合、どうしたら良いでしょうか?

A43: 本分離株に対して、個別にメロペネムの薬剤感受性試験の実施をお勧めします。しかし、貴院における腸内細菌科に対する薬剤感受性試験の指標薬を、イミペネムからメロペネムに全面的に切り替えて頂く必要はなく、CREが疑われる株が分離された場合に限って、disk 拡散法やEtestなどでメロペネムへの耐性度を確認して頂くということが実際的と思います。

Q44: カルバペネム耐性肺炎桿菌が1名の患者の喀痰検査で検出されたので、同病棟の入院患者さんの喀痰や便のスクリーニングをしたところ、5名の患者から同様な株が分離されました。全員「保菌」と考えられたため、感染症法に基づく届け出は、「不要」と判断しましたが、医政局指導課の課長通知や事務連絡などに従い感染制御の徹底とともに保健所への相談を考えています。そこで、適切に感染制御を実施するため、一連の分離株のカルバペネマーゼの遺伝子型別や分子疫学解析をしたいと考えています。しかし、当院の細菌検査室ではそれらの解析を実施できません。どのようにしたら良いでしょうか?

A44: 診療のための臨床分離菌の解析は、原則としては病院の責任で行って頂く必要があり、民間の検査センターの中からカルバペネマーゼの遺伝子型別や分子疫学解析を有料で実施してくれる所を探して委託して頂くのが基本です。しかし、そのような解析を請け負ってくれる検査センターが見つからない場合には、各都道府県に設置されている地方衛生研究所が解析してくれる場合もあり、保健所と相談して頂くのが良いでしょう。また、近隣の大学病院等の連携医療機関や大学の細菌学教室などにご相談して頂くことも良いでしょう。

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Q45: 最近、海外からのCREや多剤耐性アシネトバクター(MDRA)の侵入が問題となっています。医療機関側としてどのような点に注意したら良いでしょうか?

A45: 患者さんの問診の際に、海外渡航歴を必ず確認し、数ヶ月以内にCREやMDRAが広がっている地域に滞在したりそこで医療行為を受けたことがある患者さんの場合は、それらの地域で問題となっている薬剤耐性菌の検査を実施し、検査結果が出るまでの数日間は、「保菌者」と見なして、可能な限り「個室管理」を含めた接触予防策の励行をお勧めします。

Q46: 今回、感染症法が改訂されてカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症が新たに5類全数報告疾患に追加指定されました。このなかで、「メロペネムのMIC値が2 μg/ml以上であること、又はメロペネムの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が22 mm以下であること」というようにメロペネムであればそのままCREとして届出になるのに対して、イミペネムの場合にはセフメタゾール耐性も確認しなければなりません。どうしてでしょうか?

A46: 理由は2つあります。 1つ目は、Proteus属 やProvidencia属などの腸内細菌科の菌種は、生来IPMに低度耐性(2-4μg/ml) を示す株がありますが、それらはカルバペネマーゼを産生しておらず、また他の多くのセフェム系には「感性」と判定されるため、セフメタゾールに「耐性」という条件を付して、それらを今回の報告対象から除外するためです。 2つめは、ESBLの過剰産生株で外膜の変化を同時に獲得するとIPMのMICが「R」領域に来ることがありますが、それらは通常、セファマイシンであるセフメタゾールに「感性」と判定されます。したがってESBLの過剰産生株で外膜の変化を同時に獲得した「CREもどき」株を除外するためです。 ただし、この基準でもAmpCを過剰に産生し、外膜蛋白の変化を獲得したEnterobacterCitrobacter, Klebseilla属等を除外することは難しいです。その場合、アミノフェニルボロン酸を用いることで、識別が可能になる場合もあります。 薬剤感受性試験でメロペネムを用いた場合は、上記をあまり考慮する必要がないということです。

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Q47: 抗菌薬を使用するとその抗菌薬に耐性を獲得した薬剤耐性菌が出現するので注意が必要と言われていますが、抗菌薬の投与は耐性菌の出現を促進するのですか?

A47: 多くの抗菌薬は通常では、細菌の遺伝子の塩基配列の突然変異を引き起こすなどの作用(変異原性)はありませんので、抗菌薬を使用することで細菌の遺伝子の変異が誘発や誘導されて薬剤耐性菌が出現しやすくなると言う事はありません。抗菌薬を使用してもしなくても、細菌は一定の頻度で染色体DNAの塩基配列の変異を起こしており、抗菌薬を使用していると、偶然、その抗菌薬に抵抗性や耐性を付与する遺伝子に変異を獲得した菌株が生き残って増殖し増えてくるので、見かけ上、薬剤耐性菌が「出現」したように見えるのです。このような現象を「変異と選択」と呼びます。 つまり、抗菌薬の投与は「変異」には通常は影響しませんが、「選択」には影響するということです。

Q48: (一般の方よりの質問)ニュースで薬剤耐性菌の問題が報道されていたので、薬剤耐性菌が体内で増えるといけないと思い、病院で処方してもらった抗菌薬の量を指示された服用量より少なめ(1日3回内服を2回にするなど)に服用していますが、これでいいでしょうか?

A48: 薬剤耐性菌の増加を防ぐと言う観点からは、そのような抗菌薬の内服は危険です。中途半端な量の抗菌薬の内服は病原菌を完全に殺さず、半殺しの状態にし、そのような状態が長く続くと死にかけた菌の中から耐性菌が選択されて、逆に耐性菌を増やす結果になる危険性があります。そこで、病院で処方された抗菌薬は、決められた量を必用な期間きちんと飲み切る事が大切です。

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Q49: プラスミドには、自己伝達能力のあるものと、伝達しにくいものがあると聞きました。私の病院で分離されたセフォタキシムとゲンタマイシンの両方に耐性を獲得した肺炎桿菌からプラスミドを抽出しアガロースゲル電気泳動をしたのですが、大きいプラスミド(>120 Kbp)と小さいプラスミド(15 Kbp程度)が2つありました。ゲンタマイシン耐性は容易に伝達し、その遺伝子は、大きなプラスミドにより媒介されている事が示唆されました。しかし、自己伝達能を持たないと思われるセフォタキシム耐性を担う小さいプラスミドも低頻度ですが、大きいプラスミドとともに伝達されるようです。これはどうしてでしょうか?

A49: 自己伝達能を有しない小さいプラスミドも、自己伝達能を持つ大きなプラスミドの伝達時に一緒に伝達される事があり、この現象は古くからmobilizationと呼ばれています。したがって、自己伝達能を持たない小さいプラスミドも自己伝達能を有するプラスミドの接合伝達に伴って、同種の菌株間や別の菌種に徐々にですが、伝達拡散する場合があります。

Q50: 私の病院では、IMP-1型MBLを産生する大腸菌が数ヶ月に亘り数名の患者から分離され、その後、肺炎桿菌からもIMP-1型MBL産生株が分離されるようになりました。それぞれの大腸菌と肺炎桿菌からIMP-1型MBLの遺伝子を保有するプラスミドを抽出し電気泳動したところ、大きさもやや異なり、制限酵素切断パターンでは、同じサイズのバンドも2〜3本見られましたが、全体としてかなり異なっていました。そこで、両耐性株は疫学的、遺伝的に関連性が無いと判断しようと思いますが、それでよろしいですか?

A50: プラスミドは、自己複製の際や、細菌の細胞分裂や接合伝達の際に、種々の挿入配列(IS)やそれで挟まれた領域が脱落したり、別の箇所に転位したり(トランスポゾン)、あるいは他のプラスミドと融合したりして、数ヶ月の間にサイズや制限酵素切断パターンが変化する事が良くあります。そこで、両プラスミドの疫学的、遺伝的関連性を正確に判断するには、IMP-1型MBLの遺伝子を担う領域に存在する遺伝子の並び順や、さらにIMP-1型MBL遺伝子の前後を含む遺伝子領域の中に見られる点変異部位のパターンの比較をするなどの詳しい解析が必用になります。このような解析には特殊な知識と技術が必用ですので、近隣の大学病院の検査部や細菌学教室の先生にご相談下さい。

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Q51: 既知のカルバペネマーゼを産生することなく、おそらく染色体性のAmpCの産生増量と外膜ポーリンの欠失によると思われるイミペネム耐性(MIC, 8μg/ml)のE. cloacaeがこの半年間に30名程度の患者の喀痰や尿などから断続的に分離されています。ICTのチーフは、感染症科以外がご専門の先生ですが、NDMやIMP、KPCなどのカルバペネマーゼが陰性のため、この種の耐性菌は「常在菌」という理解で、保菌調査はせず、標準予防策のみで良いと判断しておられます。それで良いのでしょうか?

A51: この事例については感染対策上問題がある可能性があります。耐性株の水平伝播が非常に疑われますし、AmpC過剰産生とポーリン欠失でおそらくほとんどのβ-ラクタム剤に耐性となり、もし感染症の起因菌となってしまった場合、治療の選択肢が限られることになるからです。感染対策としては、接触感染予防策でどの位厳重にするのか、どの程度検出されれば積極的保菌調査を行うのかは各施設での考え方によると思われますが、感染症診断のための検査だけで30例確認されているとなると、すでにかなりの保菌者がいると推察されます。今回の場合は水平伝播が起きているかどうかを、少なくとも調査する必要があるのではないかと思われます。水平伝播が確認されるようなら、感染対策は標準予防策だけでなく、接触感染予防策が必要になります。万一、菌血症等の感染症を発症した場合は、有効性が期待できる抗菌薬による単剤もしくは状況に応じて併用療法も考える必要があると考えられます。

Q52: 薬剤耐性遺伝子などを媒介するプラスミドの性質を記述する時にIncKとかIncFとか書いてある場合がありますが、これは何を意味しているのでしょうか?

A52: プラスミドは同じ細菌細胞に複数個存在し、細菌細胞内で自己複製し、細胞分裂の際に娘細胞に分配されて行きます。また、同じ細胞内に大きさや担う遺伝子のセットが異なる複数種類のプラスミドが同時に共存することも多くみられます。しかし、プラスミドの中には、同じ細菌細胞内で共存できないタイプもあります。つまり2種類のプラスミドが同じ細菌細胞内で共存しつつ複製できない関係の場合には、両者のプラスミドは同じ不和合性群(incompatibility group)に属すると言います。このようなプラスミド相互の「incompatibility」に影響する性質をInc型と呼び、IncFやIncK、IncN、IncP等の様々なタイプに分けて命名されています。さらに、IncFもIncFIとかIncFIIなどと細かく分類されています。ちなみに、IncK型のプラスミドを持つ細菌細胞内に他の細菌細胞からIncFのプラスミドは接合伝達などで取り込まれ、共存し得ますが、サイズや担う遺伝子のセットが異なるIncKのプラスミドが伝達した場合には、やがてどちらかが排除され消えてしまうことになります。プラスミドのInc型は、プラスミドの複製に関与する複製開始点(replication origin、略してori)およびその近傍の塩基配列の違いにより型別できる場合があり、PCRによるInc型別法が報告されています(参考文献)。

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Q53:カルバペネム耐性のEnterobacter cloacaeが分離されたので、SMA disk法で調べたところ「陽性」となりました。そこで、PCR解析をしたところ、「IMP-1型」と判定されました。ICTの責任者に、「IMP-1型MBL陽性のE. cloacaeが検出されました。」と報告したところ、「IMP-1型は、昔から日本でしばしば報告があるタイプで、国際的に警戒されているNDM-1型やKPC型などとは違うので、標準予防策を励行しつつ、様子を見ましょう。」というご判断でした。これでよろしいでしょうか?

A53: 結論としては、適切な判断とは言えないと思われます。IMP型は、NDM型やVIM型、KPC型に比べ、カルバペネムを分解する活性が強いので、細菌学的には、IMP産生株の方がNDM産生株などより、危険な株と考えられます。Enterobacter属菌は、ヒト消化管に保菌され易い菌種で、便などを介して伝播する傾向がある菌種です。そこで、この菌種がMBLを産生するという事であれば、標準予防策に加え、排便介助や便の処理等の際に接触感染予防策が必要になって来ると思われます。つまり、国内でしばしば分離されるIMP-1産生株であっても海外で警戒されているNDM−1産生株などと同様に、十分な接触感染予防策の実施が必要と思われます。

Q54: CREや多剤耐性アシネトバクターが複数の患者から分離され、感染制御策を講じるために、分離された一連の薬剤耐性株の詳しい分子疫学的な解析が必要になりました。しかし、PCRやPFGE解析、POT法、MLST解析等は、健康保険で経費が出せないため、病院の検査室では実施できず感染制御上限界があるというのが実態です。なぜ、これらの検査が、健康保険で実施できないのでしょうか?

A54: 健康保険が使える検査は、患者さん個々人の病態を診断したりするための検査です。しかし、PCRによる薬剤耐性遺伝子の検査やPFGE解析、POT法、MLST解析などは、患者さん個々人の診断や治療方針を立てるための検査ではなく、病院の安全管理業務の一環としての感染制御のために必要な検査ですので、そもそも健康保険で支出されるべきものではありません。そのかわり、感染制御や感染管理に必要な検査や解析のための経費は、「感染防止対策加算」を充当することができるはずですので、ICTの責任者を通じて病院管理部とご相談下さい。

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Q55: 最近、GES型のカルバペネマーゼという話を聞いたのですが、どのような特長があるのでしょうか?

A55: GES型のカルバペネマーゼとして国際的に注目されているものとしては、GES-5というタイプがあります。既に国内では、GES-5を産生する緑膿菌が関西地区の病院でアウトブレイクを起こしています。さらに、国内では、GES-4型も、肺炎桿菌で報告されています。これらのGES型カルバペネマーゼは、GES-1やGES-3などのGES型ESBLと比べ、酵素の活性ポケットの一部を構成する170番目のグリシン (G : Glycine)というアミノ酸がセリン(S : Serine)に置換した共通構造を有しています。分子分類的には、KPC型カルバペネマーゼにやや近い構造をしています。なお、カルバペネムを分解する能力は、カルバペネマーゼの中では比較的弱い部類に入り、GES-5産生株は、OXA-48産生株などとともに、「Carba NP test」や「Modified-Hodge test」では「偽陰性」となる場合があるので注意が必要です。

Q56: NDM-1はカルバペネム系を分解する酵素なので、アミノ配糖体系やフルオロキノロン系は分解や不活化はできないと理解しています。しかし、NDM-1産生肺炎桿菌などは、カルバペネム系以外にも別系統のアミカシンやシプロフロキサシンにも多剤耐性を示す傾向が強いですが、どうしてでしょうか?

A56: たしかに、NDM-1はカルバペネム系を分解しますが、系統の異なるアミノ配糖体系やフルオロキノロン系は、分解や不活化ができません。しかし、NDM-1産生株は、多くの場合、アミノ配当体系抗菌薬の標的分子である16S rRNAをメチル化することでアミの配当体が標的部位に結合できなくしてしまう酵素(ArmA, RmtB, RmtCなど)やアミノ配糖体を修飾して不活化する酵素(AACやAPHなど)を同時に産生する株が多いです。また、NDM-1の遺伝子を媒介する伝達性プラスミドにはCMY型のセファロスポリナーゼの遺伝子も乗っており、さらにCTX-M-型のESBLの遺伝子も共存する別の伝達性プラスミドにより媒介されている事例が多いです。それに加え、NDM-1産生株の多くでは、染色体依存性に産生されるDNA gyrase (GyrA)やTopoisomerase IV (ParC)のキノロン耐性決定領域(QRDR)にアミノ酸置換を獲得しており、フルオロキノロン系薬が効きにくくなっています。その結果、これらの複数の耐性メカニズムが総合的に働き、NDM-1産生株は多剤耐性と言う形質を獲得しています。

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Q57: 薬剤耐性プラスミドの不和合性型(Incompatibility type)には、IncA/CやIncF、IncN、IncI1、IncK、IncP、IncWなど沢山あり、IncFは、IncFIやIncFII、さらに、IncFIAやIncFIBなどと細かく分類されているようです。 学会などでの発表の際などに、IncFIの「I」が、ローマ数字の「I: one」 なのか、あるいはアルファベットの「I: ai」なのか、はっきりせず、混乱があるようですがどちらなんでしょうか?

A57: IncFIやIncFVの「I」や「V」についてですが、それらは、アルファベットの「I」や「V」ではなく、ローマ数字であり、「one」 や「five」を意味します。 その根拠は、IncF型には、IncFIVやIncFVIというのもあり、「IV」は「four」、「VI」は「six」に相当します。 しかし、IncI1の「I」は、アルファベットの「I」ですので、混乱しないようにしましょう。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3015005
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6308130

Q58:「クロモゾーム」と「ゲノム」との違いがよくわかりません。「薬剤耐性に関与する遺伝子は、プラスミドではなくゲノム上に存在していた。」と記載したら、「間違っている」と指摘を受けました。どういうことなのでしょうか?

A58:クロモゾーム(chromosome)とは、染色体のことで、細菌の場合は相補的な二本のデオキシリボ核酸(DNA)の鎖が螺旋状に絡んだ環状構造をしています。また、細菌細胞内には、染色体より小さな自己複製可能な環状DNAが複数コピー、場合によっては複数種類存在し、それらはプラスミドと総称されています。一方、ゲノム(genome)とは、それぞれの生物の生物学的特性(形質)を安定的に維持するためのすべての遺伝情報、言い換えれば物質であるDNAから構成される染色体やプラスミド上に遺伝子として暗号化された、特定の生物の生物学的特性を決定する遺伝情報のすべて(総体)を意味する用語として現在使用されています。したがって、プラスミド上に暗号化されていてその菌株の特性を決定する遺伝情報もゲノムの一部ですので、「薬剤耐性に関与する遺伝子はプラスミドではなくゲノム上に存在していた。」は誤りで「薬剤耐性に関与する遺伝子はプラスミドではなくクロモゾーム上に存在していた。」と記述するのが正しいです。「クロモゾーム=ゲノム」と勘違いしたり、「クロモゾーム」と「ゲノム」とを混同したりしないように注意が必要です。
<追加の解説:ゲノム(genome)とは、1920年頃に、それぞれの生物が調和のとれた生物学的形質を安定的に保つ上で不可欠な因子(Gen)の総体(ome)を指す概念としてWinklerにより提案されました。ドイツ語のGenは生物学的形質を規定する因子の概念(現在では遺伝子)を意味する用語ですが、1920年頃はまだDNAや染色体が遺伝情報を担うことが知られていませんでした。1944年のAveryらの実験と1952年のHersheyらのbacteriophageを用いた実験などによりDNAが遺伝情報を担う本体であることが確定され、またそれまでは機能がはっきりしていなかった染色体がDNAでできているという事実とから、genomeという用語は染色体に依存して特定の生物の生物学特性(形質)を安定的に維持するすべての遺伝情報(概念)という解釈とともに、それらの遺伝情報を担う染色体(物質)の一組と拡大解釈されて用いられてきました。しかし現在では、genomeとは物質であるDNAから構成される染色体そのものではなく、特定の生物の染色体やプラスミドなどに暗号化されているその生物の生物学的特性を決定する遺伝情報のすべて(総体)を意味する用語として使用されています。  genomeという用語が一般化した後に、近年proteome、metabolome、transcriptomeなど、末尾に(ome:総体を意味する)を付加した用語が相次いで作り出されました。 これらの新しい用語は、proteinsやmetabolites、transcripts(mRNA)などの「物質」に依拠して出現する多量かつ高次の「体系的情報」や「調和した機能」などの総体を意味する概念を示し、それらを扱う学問をproteomicsとかmetabolomics、transcriptomicsなどと呼ぶようになりました。そして、現在は(omics)という生命現象に不可欠な高次の多量な情報と機能を系統的、体系的に理解するための生命科学の新しい分野として発展しつつあります。ちなみにgenomicsとは1980年代より用い始められ、核酸の配列に規定される概念としての遺伝子(gene)に暗号化されている遺伝情報やそれに基づく生物の生命維持に不可欠な調和のとれた高次元の現象を系統的に扱い、理解するための新しい生命科学の一分野ということになります。>

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Q59:IMP型やVIM型、NDM型のカルバペネマーゼには、IMP-1やVIM-1、NDM-1などがありますが、KPC型にはKPC-1に関連する報告はほとんど無く、KPC-2やKPC-3が多く報告されています。どうして、KPC-1は、「レア」なのですか?

A:59: KPC-1は、最初、Tenoverらのグループにより発表されました。その後、ThomsonらのグループによりKPC-2が報告されました。KPC-2が報告された後、KPC-1で最初に報告された塩基配列やアミノ酸配列に間違いがあることが判明し、KPC-1はKPC-2と同じであることが明らかとなり、KPC-1は、「欠番扱い」となりました。新しい遺伝子の登録や論文発表の際には、塩基配列やアミノ酸配列に間違いがないか十分に確かめて行うことが、重要です。

Q60: 細菌が産生するカルバペネマーゼとしてはクラスBに属するIMP型やNDM型などのメタロ-β-ラクタマーゼとともに、クラスAのKPC型やGES型、さらにクラスDのOXA型などが知られています。しかし、クラスCにはカルバペネマーゼ活性を有する酵素は出現していないと理解していますが、それで正しいでしょうか?

A60: たしかにクラスA、B、Dに属するβ-ラクタマーゼには、多数の変種も含めカルバペネマーゼ活性を有する酵素が出現し世界中に広がっています。一方、クラスCでカルバペネマーゼ活性を有するタイプは稀ですが、既にCMY-2やCMY-10がそれほど強くはないもののカルバペネム分解活性を示すことや、さらに Acinetobacter baumanniiで発見されたADC-68と命名されたクラスC β-ラクタマーゼがカルバペネマーゼ活性を有する事が報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23763375
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16677302
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25372683

Q61: カルバペネマーゼ産生株の判定法の一つとして、最近、CIM (carbapenem inactivation method) が推奨されているので、イミペネムのMICが8 μg/mlと判定された大腸菌に対して実施してみたところ、「陽性」と判定されました。しかし、PCRでは、クラスA、B、Dに属する既知の代表的なカルバペネマーゼは「陰性」となりました。この結果をどのように考えたらよいでしょうか?

A61: FRI-1やFRI-2などの新規のカルバペネマーゼを産生している株や、用いたPCRプライマーによっては検出し難いタイプのカルバペネマーゼなどの産生株である可能性もあります。そこで、改良型のCIM (mCIM)で再試験したり、クラスC β-ラクタマーゼで弱いカルバペネム分解活性を有するCMY-2やCMY-10などの産生量が多い株の可能性も考慮して、アミノフェニルボロン酸なども併用して検査・解析してみる価値があるでしょう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28476242
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28605515
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28381609

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